第6話 オオカミと少年

第6話 オオカミと少年


 やがて夏が終わり秋になりました。少年の「オオカミが来た!」投稿数は100を超えました。でもオオカミは現れません。ようやく村人たちは気づき始めていました。オオカミなど実はどこにもいないのだと。

 ……原作を忠実に再現すれば(ここまで書いておいて今さら忠実もないけれど)、少年は最後にオオカミに襲われなければならない。

 でもここまで書いたため作者は、孤独な少年に情が移りすぎてしまった。

 「嘘ばかりついていた少年はオオカミに襲われて食い殺されてしまいました」では終われない。終わらせたくない。あまりに無慈悲すぎる。何とかならないのか。

 だからエンディングは変える。

 少年はSNSで得たノウハウを駆使して、YouTuberとして成功しました。いまや有名人です。大都会の高層マンションの一室で、早朝から夜中までパソコンやスマホやi-padなど多くのデジタル機器に囲まれて、とても忙しい日々を送っています。

 でも時おり、少年は羊飼いのころを思い出します。
 高層マンションの部屋の中にはもちろんヒツジはいません。

 エアコンの温度調整をしながら少年は思います。

 かつて僕は孤独だった。

 椅子に座って最新式のスマホを手にして、少年は再び思います。
 そして今は孤独ではないのだろうか。これは僕が望んだ人生なのだろうか。

 そのとき、すっかり老いて毎日寝ているだけになってしまったペスが、ふと片目を開けて小さな声で言いました。

 ……とっぴんぱらりんのぷう。

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Written by 森達也
森達也

1956年広島県生まれ。映画監督・作家・明治大学特任教授。テレビ・ディレクター時代の98年、オウム真理教のドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。11年に『A3』(集英社インターナショナル)が講談社ノンフィクション賞を受賞。

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