女子校と蜘蛛の糸  #それでも女をやっていく

女子校と蜘蛛の糸 #それでも女をやっていく


とはいえ、クヨクヨしないで切り替えよう!と思っても、完全なる無一文になってしまったという事実は覆らない。持っていたカード会社のサポートデスクに電話したところ、「緊急カード」という一定期間利用できる仮のクレジットカードを発行してくれることがわかった。
また、国際送金サービスを利用すれば、現金を手に入れられそうなこともわかった。それでも数日はタイムラグがあるため、当座の現金はあった方がいい。せめて100ポンドは欲しかったが、人に借りるには、それなりの金額である。普段わたしの人となりを知っている友人・知人に頼むならともかく、異国で知り合ったばかりの人々に頼むのはかなり抵抗があった。そもそも、「リュック丸々盗まれた」とか言って、果たして信用してもらえるのだろうか……。
パブで一緒にいたバンちゃんに頼む手はあり得たが、現場での醜態に重ね、迷惑をかけるのは忍びなかった。ロンドンに滞在して2週間。荷物を盗まれたものも、その中に有り金が全部入っていたのも、頼れる相手がいないのも、すべて自業自得……あまりにも愚か……。
ロンドンに来てまで日本人で集まって日本語をしゃべっている人たちを、ちょっと小馬鹿にしていた己が、顔から火が出るほど恥ずかしかった。あれは、異国でトラブルがあった場合の担保でもあったのだ。

(イメージ:写真AC)

一文無し・信用無しの窮地に陥り、眠れぬ夜を過ごしたわたしだったが、一晩経ったら、ちょっと光が見えた。一人だけ「恥を忍んで頼ってみようか」と思える人間が浮かんできたのだ。
感じの悪いアラサー独身女を信用してくれ、図々しいお願いをしても大目に見てくれそうな相手……それは、1週間前に二人で食事をした、ロンドン在住の中高の先輩・アイコさんだった。

アイコさんは、ロンドンにある医療系企業で働く36歳の女性だ。20代の時に公衆衛生の研究をするために大学院留学したのがきっかけで、ロンドンに移住。現在は、大学院で知り合ったパートナーと暮らしている。
わたしが出身校――私立女子学院に入学した時に、アイコさんは高校2年生。在籍時期が被っているのだが、在学中からずっと交流を温めていた……というわけではない。ロンドンに行く前に「おいしいご飯屋リスト」を送ってくれたフォロワーさんが、アイコさんと仲良くしており、出身校が一緒だから現地でしゃべってみてはと紹介してくれたのだ。

しかし、わたしとアイコさんのつながりは、単なる同窓生にとどまらなかった。名前を聞いてから気づいたのだが、なんと、わたしが一年だけ在籍し、同級生とそりが合わずに退部したバレー部の、当時の高校キャプテンだったのである。
わたしの学年は人数が多かったのもあり、アイコさんの方はすぐやめたわたしのことを流石に覚えていなかったが、わたしの方は、下級生にも分け隔てなく爽やかな笑顔で挨拶してくれるアイコさんのことが記憶に残っていた。

(イメージ:写真AC)

正直、しっかり部活をまっとうして引退した人に、たった一年でやめたわたしが「部活の後輩で〜」とか言うのは恥ずかし過ぎたのだが、アイコさんはとても優しく、夕食を食べて昔話に花を咲かせた日も「二重に後輩だし、今日はわたしが出すよ」とおごってくれたほどだった。12年ぶりにつながった縁に甘えさせてもらい恐縮していたのだが、まさかその温情に、こんなに早くすがることがあろうとは……。ましてや、あれだけ普段インターネットで悪口を言っている母校がもたらした蜘蛛の糸なのだった。

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Written by ひらりさ
ひらりさ

ライター・編集者。平成元年生まれのオタク女子4人によるサークル「劇団雌猫」メンバー。
劇団雌猫としての編著書に、『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。
個人としてもアンソロジー同人誌『女と女』を発行するなど、女性にまつわるさまざまなテーマについて執筆している。
初の単著『沼で溺れてみたけれど』(講談社)が発売中。

»https://twitter.com/sarirahira

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